Waitingforyou

ざわめく都会のノイズ。

遠くに見える蜃気楼。

あれは何?

夢?

まぼろし?

でも、ゆれる空気の波の中に、はっきり見える。

薄茶色の光に包まれて、不思議そうに俺を見る人?

民族衣装のような青い布を身に纏う男か女かもわからない人と、

目が合う。

確かに目が合うんだ。

ピントの合わない映像みたいなんだけど。

目が合った瞬間、微笑んで見えるのはやっぱり俺の錯覚?

翔ちゃ〜ん!

ドンと背中を押されてハッとする。

何、ぼーっとしてんの?

いや、なんでもない。

俺は笑って相葉を見返す。

今日は、いつにも増して暑いからねぇ。

汗っかきの相葉が、額の汗を拭いながら空を見上げる。

37度だって、最高気温。

今度はシャツをパタパタさせながら言う。

そんなことしたって、熱風が揺れるだけで、少しも涼しくならないのに。

あ、そうそう、午後の講義、休講だって。聞いた?

ごそごそと鞄の中からペットボトルを取り出す相葉と並んで歩く。

え?聞いてない。

やっぱり!

相葉が得意顔でペットボトルの水を飲む。

じゃ、今日は翔ちゃんのおごりでカレーね!

え〜?

俺はわざと大げさに驚いて見せる。

そりゃそうでしょ?わざわざ教えに来てあげたんだから!

相葉が笑って、またペットボトルの水を飲む。

俺は空を見上げて。

またさっき見えた辺りに視線を合わせたけど、

もう蜃気楼は見えなかった。

小さい頃から、時たま見える蜃気楼。

微笑むあの人は、いつも変わらず俺を見つめて、

最後に笑う。

変わらぬ笑顔で、俺に笑い掛ける。

あの人はいったい誰?

なぜ俺を見つめる?

今日も暑い。

営業から帰る道すがら、公園の木陰でちょっと休憩する。

ネクタイは緩められないけど、腕に掛けた上着は、軽く畳んで隣に置く。

ゴクゴクとペットボトルの水を飲み、涼し気な噴水に目を向ければ、

ちょっとは涼しさも感じられて。

感じられて。

こない。

うだるような暑さ。

早く営業所に帰った方がいいのかも。

立ち上がろうとして、芝生の上に視線を向けると、また蜃気楼が見える。

今までに何百回と見てる蜃気楼。

それが、このところ、色を濃くしてるよう気がする。

薄茶色だった景色が、濃いオレンジになり、

青い民族衣装も鮮明になって、その模様までわかるようになってきた。

背景の、どこだかわからない街並みも、

東南アジア辺りの古代都市を連想させるまでにはっきりしてきた。

あの人の顔も。

白く輝く肌と漆黒の瞳。

布を被っているから、長さはわからないけど、顔にかかる髪も黒。

通った鼻筋に垂れた眉毛。

ああ、眉毛も黒だ。

俺を見る笑顔は、愛しそうで切なそうで。

俺を待ってるみたいで。

赤い唇がゆっくり動く。

え?

あの人が何か言ってる?

俺に何か言い続けてた?

何を?

俺は耳を澄まして聞いてみる。

もちろん、噴水の水音と鳥のさえずり、車の走る音しか聞こえない。

でも、じっとあの人の唇を見て、神経を集中させて。

すると、俺の中に響く声。

綺麗な澄んだ声でこう言った。

さぁ、最後のあの人のセリフ、みんな考えてね〜

すてきなセリフ、待ってるよ〜

今日は仕事があるので、切は今日の夜、20時で!

みんなも仕事中、山の妄想してね

もちろん、家にいる人も家事の合間に山妄想〜

広告を非表示にする